貯蔵庫

日記、ぶつける当てのないもやもやを置いておく場所

究極のボロネーゼ

家の近所にバリがある。嘘じゃない。モアイ像の亜種みたいな大口を開けた頭でっかちの像が鎮座し、ソテツが生え、色とりどりのサーフボードが立てかけてある。おまけにハイビスカスが笑いかけてきて、グァバジュースは飲み放題。バリに行ったことはおろか知識も全くないが、ここまで揃っていて、バリじゃない理由が見当たらない。バリ人からしたら、見当はずれなものかもしれない。ライクア、歌舞伎メイクのロボ関取。スーツに日本刀ロングコートの真田広之攻殻機動隊

話がそれたがその実、そこはちょっと高級路線のファミリーレストランである。一品1500~2000円程の価格帯であり。常日頃からカジュアルに利用するには少し気が引ける感じ。類似タレントとしてはロイヤルホスト、レッドロブスターなどが並ぶ。妻と私はお互い優柔不断なので、30分かけてメニューをめくる。寄せては返す波のように。何度も、何度も、めくる。

はたと、ひとつのメニューに目を奪われる。名を"究極のボロネーゼ"。

「わははは、究極のボロネーゼとは。笑わせる、随分と強気に出たな。士郎。」私の顔がみるみる四角くなり、肩幅がぐんと広がる。こめかみあたりの頭髪と前髪の色素が抜け落ち、とうとう私は海原雄山になった。ドリンクバーから持ってきたパイナップルジュースを飲みながら、着物の袖の中で腕組みをして待つ。ほどなくして士郎の"究極"の料理が運ばれてきた。東西新聞社の社運を賭けた渾身の一品、私に見せてみるが良い。

細身の女性店員さんが、ハンドルが付いた小さな銀色の器具を湯気が立つ温玉が乗ったパスタの上にかざす。ハンドルをぐるんぐるんと回す。器具から細かなチーズが勢いよく落ちてきた。終盤は店員さんのスタミナ不足で何度かハンドルが止まる。がんばれ!!がんばれ~~!!と心の中で応援した。居酒屋の生搾りレモンサワーと同じシステムだ。お互い気まずいから、こんなシステムやめたらいい。

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柔らかくなった牛スネ肉からはほんのり焦げたような、香ばしい香り。貧民の日常にない牛肉の力強い風味。真っ黒い毛並みの整った雄牛が、自慢のツノを振り乱しながら、俺こそがミートであり、それ以外はないと訴えかけてくる。硬さの違いがそう思わせるのだろうか、家で茹でる安いパスタと違って立体感がある気がする。温玉とチーズが肩を組んで口の中をこってりしょっぱくさせて消えていった。

「フン…くだらん。私はこんなもの究極のメニューとは認めんからな。」海原はすね肉の繊維一つ残さず、綺麗にパスタを平らげると満腹の腹をさすりながらピスタチオのパフェに備えて、食後のコーヒーを取りに行くのであった。

 

今週のお題「最近おいしかったもの」